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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(あ)832号 判決 1965年11月02日

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中一八〇日を第一審判決の本刑に算入する。

理由

被告人本人の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反および量刑不当の主張であって、いずれも上告適法の理由に当らない。

弁護人高橋修の上告趣意一のうち、判例違反をいう点について。

原判決は、被告人の弁護人池田輝孝の主張した、酌量減軽の規定はこれによってはじめて科し得る刑を量定する場合にのみ適用されるべきものであるのに、第一審判決が酌量減軽の規定を適用しながら被告人に無期懲役刑を科したのは、法令解釈の誤りであるとの控訴趣意に対し、第一審判決はただ卒然として無期懲役刑を科したのではなく、被告人の犯情は死罪に該当するものとして先ず死刑を選択しているのであるが、同じく死刑に処すべき相被告人宍倉に比較すると犯情に憫諒すべき点があるとして右選択刑に対し酌量減軽を施し、よって無期懲役刑または一〇年以上の懲役刑という処断刑を得、その範囲内で無期懲役刑に処すと定めたのであって、もとより判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の解釈適用の誤は存在しない旨判示したことは、所論のとおりである。

ところで所論引用の大審院判例および各高等裁判所判例は、いずれも、酌量減軽をする場合は、法定刑の最低をもって処断しても、なお重いと思料される場合に限る旨判示しているのであるから、原判決は、これらの判例と相反する判断をしたことになり、刑訴法四〇五条三号に規定する最高裁判所の判例がない場合に大審院および控訴裁判所である高等裁判所の判例と相反する判断をした場合に当るものといわなければならない。そして、当裁判所も、右大審院および各高等裁判所の判断を正当であると認める。

しかしながら、原判決の是認している第一審判決は、法定刑および酌量減軽の結果ひき出された処断刑の範囲内において、被告人を無期懲役刑に処しているのであるから、同法四一〇条一項但書にいう判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合に当るものといわなければならない。

同一のうち、その余は、単なる法令違反の主張であり、同二は、事実誤認、単なる訴訟法違反および量刑不当の主張であって、いずれも上告適法の理由に当らない。

また、記録を調べても同法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同法四〇八条、刑法二一条、刑訴法一八一条一項但書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)

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